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消費者志向経営実現に向けた消費生活アドバイザーの役割

今井 では、そうした消費者志向経営を実現するために、消費生活アドバイザーはどういう役割を一人ひとり果たしていくべきなのか、うかがっていきたいと思います。

川口 消費者志向や顧客視点を掲げない企業はないと思います。ですが、本気で取り組むとなると、さまざまな制約やしがらみがあるのも事実です。目の前の業務を優先すると、つい利益のほうに目が行き、商品の品質を軽視することもあるのではないでしょうか。
 それらの制約やしがらみに立ち向かって、幅広い知識と高い知見で、経営層や関係者を消費者志向の方向に導くことが消費生活アドバイザーの使命だと思います。

商品の品質を二つに分けると、一つは基本機能である「当たり前品質」でお客様が考える「あるべき期待に応える品質」です。もう一つが付加機能で、これは「魅力的品質」と言われ、お客様が考える期待を上回り、満足・感動、そして信頼をつくる品質です。基本機能がなければ、付加機能があったとしても何の意味もなく、このどちらも大切です。
 当たり前品質と魅力的品質の両方を高めることも、消費生活アドバイザーの重要な役割だと思います。

また、少子高齢化などのように、社会の変化や法律ではカバーしきれない領域などもあります。たとえば今年度、日本ヒーブ協議会では企業における高齢者対応の研究を行っています。一企業では実施できない課題を業界団体や消費者関連団体が中心となって横断的に考え、各社の消費生活アドバイザーが企業に持ち帰り、消費者志向経営を後押しすることも非常に意義があると考えています。

また、総務省の調査では日本の企業の99%以上が中小企業で、消費者に対する情報提供の在り方や、相談室の整備状況、また従業員教育などに課題が見られるという声も聞かれます。中小企業に消費生活アドバイザーを増やし、消費者志向経営の視点を積極的に取り入れるようにすることも重要だと思います。

木村 私は、消費生活アドバイザー資格者の役割には、企業内における役割と企業外における役割があると思っています。
 まず企業内における役割は、大きく三つあります。
 一つは、各部門のCSの推進役になり、各部門のCS向上をリードしていく役割です。特に、社内で消費者志向に反する行為を見かけたりした場合、アラームを発するなど、「CSの番人」とでもいうような役割を果たすことが求められます。
 2点目は、企業にも消費者にも偏らず、中立的な立場でお客様の問合せや苦情に対応していくとともに、お客様に各種情報を提供することです。このことを通して、広い意味での消費者啓発を行うことも、お客様に接する部門では必要であると思います。
 3点目は、ESの推進です。ESはCSを支える大きなキーになりますので、人事部等の関連部門とも協働して考えていくことも必要と思います。

企業外における役割は、大きく2つあると思います。
 一つは自分自身が賢い消費者、自立した消費者として行動することです。自分自身が問題と感じることについて、企業や行政の窓口に情報を提供し、自らも改善提言を行うことが、まさに消費生活アドバイザーの役割でしょう。
 もう一つの役割は、ACAPやNACS、ヒーブ協議会のような各種団体の活動にも積極的に参加し、連携していくことによって「幸せな社会づくり」に貢献していくことです。私もACAPやNACSの会員として活動していますが、その活動を通じて企業内と違ったさまざまな視点が得られ、いろいろな考え方に触れて自分もレベルアップできると感じています。

釘宮 消費者志向経営とは、「企業がステークホルダーとの対話に基づき、社会の期待に応えていくこと」と考えています。
 その実現には、外部から意見を取り入れる懐の広さ、そして広い視野と多角的に見る目をもつ必要があるでしょう。消費生活アドバイザーは試験分野が幅広いことから、資格者は自分の専門分野だけでなく、視野の広がりやさまざまな視点も持ち合わせているだろうと思います。
 たとえば製薬会社の社員は、医薬品医療機器等法(旧:薬事法)については熟知されていても、消費者基本法や景品表示法などについてはよく知らない方も多いかと思います。消費生活アドバイザー資格者は、そうした法律を踏まえ、他の社員とは異なる視点から意見を述べることができます。

さらに消費者起点の商品開発も、消費生活アドバイザーの役割として強く求められているところでしょう。消費生活アドバイザーはそこで力を発揮していく能力をもっている方々であると思っています。与えられた仕事をこなすだけでなく、自分から行動を起こして、周囲を巻き込んでいってほしいです。
 現代社会は非常に変化が激しいです。その変化をキャッチし、どのようなことが社会で求められているのか。そこを消費生活アドバイザー一人ひとりが考えていかないと、本当の意味で消費者志向経営は実現できないのではないでしょうか。
 消費者志向の姿勢を社内に浸透させるのは難しいと思うのですが、消費生活アドバイザーが中心となって、やり遂げてほしいです。

長谷川 企業という組織の中で、一人、消費生活アドバイザーが「こうしたほうがいい」と叫んでも、なかなか実現はおぼつかないと思います。
 組織が動くには、組織の合意が必要です。「お客様って、本当に大切な人達なのだ」「お客様がいて、会社や自分達があるのだ」と心からそのように思う。人から言われるのではなくて、構成員一人ひとりが本当にそう思えるような状況をつくることが必要です。消費生活アドバイザー資格者は、組織にそうした考え方を広めていく努力を粘り強くすることが非常に大事だと思います。

もう一つ、消費社会を考えると、企業の役割・責任もあれば消費者の役割・責任もあるわけです。これをしっかりと公正に、是々非々で判断して、公正できちんとした消費社会をつくっていく。消費生活アドバイザー資格者は、それを推進する行動を取るべきではないでしょうか。
 それによって企業も引き締まりますし、消費者も単なる言いがかりのような、非常にレベルの低い行動を慎むようにしていただき、皆で協働して消費社会をより活性化する。またより安全・安心なものにしていくことが大切だと思います。
 そのような面においても消費生活アドバイザー資格者に貢献していただきたいと思います。

伊藤 消費者の嗜好に立脚して事業活動に貢献していくプロフェッショナルな集団を社会的に評価し資格化している制度は、世界でもこの資格しかないと聞きます。
 この制度の充実のために、一つのやり方として、横の連携を広げていただいて、カリスマ的な消費生活アドバイザーが登場し、メディアに取り上げられ、社会の誰もが皆さまの活動を認知して、外部の影響で企業内の評価を高めていく方法があろうかと思います。
 もう一つは企業内で具体的な成果に結びつき、評価されることです。極端な話、売上にどれだけ貢献したのかなどが評価されれば具体的に資格をとった意義として評価されていきます。相談業務も大事ですけれども、商品企画開発のところで、ポジティブに意欲的に活動・行動範囲を広げていただいて、具体的な成果が一つでもあれば、それが良い意味で風評化していく。
 ここにお集まりの皆さんが横の連携を組んで、こういった点からも今後さらにご活躍いただけることを、大いに期待しているところです。

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