特集記事
3.人と地球の未来への貢献
〜21世紀・人類社会の課題解決
現在、食関連で人類が直面している問題は、基本的に三つあると私は考えています。
一つは食資源の確保、二つ目はそういったものをつくるためにも地球環境の保全が重要であること、そして三つ目は健康希求の充足です。
●食資源確保
食資源確保という分野では、味の素グループはバイオサイクル事業を展開しています。
たとえばサトウキビ。粗糖をとった後の糖蜜から発酵技術でグルタミン酸をとります。残った液をそのまま捨てれば、川は汚れてしまいますが、ここにも養分が豊富に含まれています。これを肥料化して、サトウキビ畑に戻す。これでサイクルが完結するわけです。当然、この肥料によってサトウキビは、よりよく育ちます。
インドネシアではグルタミン酸の発酵にキャッサバというイモを使っています。そこでは農産技術がまだ未熟で、肥沃な土壌で育てられていません。ここにバイオサイクルの有機肥料を使いますと、キャッサバの収量が見事に上がります。
ほんだしをつくっている味の素グループは、日本有数のかつお節のユーザーです。このかつおを無駄なく使いきる研究をかつお技術研究所で行い、実用化しています。実は、この研究所は私が部長時代に作りました。
かつお節には身部分が使われますが、節を蒸煮したお湯の中にもたくさんかつおエキスが溶け込んでいます。これを捨てないでエキス化をする。また骨はカルシウム強化に使う。そのほかの部位も、他の部分と併せ、発酵させて魚醤を仕立てる。
このように、「かつおは一匹全部、どこも捨てない」という考え方で使っています。
●地球環境保全
先ほど、豚の飼料へのアミノ酸利用により排泄物が減ることをお話しましたが、これは最終的には温室効果ガスの低減につながります。ヨーロッパの畜産農家は生産効率が上がる面とともに、この環境保全も評価してアミノ酸を使ってくださっています。
味の素グループ33万tのリジンは約80万tのCO2削減に相当し、これは東京23区が2つ入る広さの植林と同等の効果があるというデータもあります。
またタイの主力工場では、もみ殻を活用したバイオマスボイラーを実用化し、CO2の削減に貢献しています。
●健康希求の充足
健康を考える際には、先進国と発展途上国とでは逆の手を打つ必要があります。
先進国では肥満をどう解消するか、発展途上国では足りない栄養をどう補給するか、ということです。
先進国の課題のほうでは、実はグルタミン酸(うま味)には肥満を止める効果があることが確認できつつあります。
ボタンを押すと、好きな飼料がどんどん出てくる装置にネズミを入れます。ネズミはボタンを目一杯押しますね。
このとき、グルタミン酸が少量含まれた飼料のほうは、満腹になる前に満足感が先にきて、そこでボタンを押すのをやめます。グルタミン酸が含まれていない飼料のほうは、満腹になるまでボタンを押しつづけ肥満します。
同じことがヒトについても起きるわけです。美味しい食生活で、胃袋が物理的に満杯になってしまう前に、私たちが満足感を得られれば、肥満につながらないということです。
私たちの和食生活と、欧米の脂肪や塩分、砂糖を多量にとる生活の差は、満足感を得て胃袋をいっぱいにする手前で止めていることにあり、日本人の長寿の一因にもなっていると考えられています。
唐辛子を食べると体が熱くなるのは、脂肪燃焼作用があるからです。でも、辛くてたくさんは食べられません。しかし幸いなことに、辛くない唐辛子が見つかり、これにも脂肪燃焼作用をもったカプシエイトという成分が含まれています。
味の素グループは、そのサプリメント化を米国の農務省と共同研究し、既に製品化しています。
発展途上国のほうの例を一つお話ししたいと思います。
味の素グループは、ガーナで非常に実験的なプロジェクトをスタートさせました。
ガーナではトウモロコシを発酵させてできたおかゆ(ココ)を使って離乳をしています。しかし、ココだけで離乳をしますと、アミノ酸が足りなくなります。そうすると、先ほどの桶の理論のように、ほかの栄養素も身体は吸収できなくなります。そこで味の素グループは、必要なアミノ酸をいくつかとビタミンをココに加える「ココプラス」という商品をつくりました。
この栄養改善プロジェクトは、母親が商品の素晴らしさを知って対価を払い、さらに知らない方にお伝えする。それによって生産体制を広げ、ソーシャルビジネスとして持続することができます。
貧困による栄養不足はきわめて大きな問題ですので、それを解消するために国を挙げて取り組み、大学やNPO法人、それから国連も入り、それぞれ得意な機能を持ち寄って進めています。