特集記事
4 消費者市民社会における企業の役割
(1)SR(組織の社会的責任)の遂行
1)CSRからSRへ
CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)は、企業が企業理念を核として、事業活動において利益を追究するだけでなく、さまざまなステークホルダー〈利害関係者:消費者(顧客)、株主、取引先、従業員、地域社会、国際社会等〉との関係を重視しながら社会的責任を果たすことです。CSRの考え方は、現在ではSR(企業だけでなく組織の社会的責任)という考え方に発展しています。
2)ISO 26000に見るSR(組織の社会的責任)
SR(Social Responsibility:組織の社会的責任)は、2010年発行のISO 26000の考え方です。
「社会的責任に関する手引(ガイダンス文書)」に、「組織が持続可能な開発への貢献を目指す」ということで、社会的責任の原則として7つのテーマが掲げられています。
また、その中核主題の6番目に消費者課題が挙げられ、組織の社会的責任としての消費者課題の原則について述べられています。
そこでの消費者課題の原則とは、一つは消費者に害を与えないということ、もう一つは消費者が社会に悪影響を与えないようにするということです。
前者は、消費者に経済的な不利益や、健康被害などを与えないことを指しており、後者は、消費者を社会に対して悪影響を与えるような存在にしてはならないということを言っています。たとえば、燃費の悪い車を売ってはいけない。それを買った消費者は、車を使用するほど二酸化炭素の排出を増やし、社会に悪影響を与えてしまうからです。
そして、組織の社会的責任としての「消費者課題」として、次の7つが挙げられています。
- 1.公正なマーケティング、事実に即した偏りのない情報、および公正な契約慣行
- 2.消費者の安全衛生の保護
- 3.持続可能な消費
- 4.消費者に対するサービス、支援、並びに苦情および紛争の解決
- 5.消費者データ保護およびプライバシー
- 6.必要不可欠なサービスへのアクセス
例)料金不払いに対し、合理的な猶予期間を消費者に与えずにサービスを打ち切らない。価格・料金の設定にあたり、可能な限り、困窮者への助成をする。価格・料金の設定に関する情報提供をする。透明な事業活動、サービスの中断を避けるためのシステムの継続的な保守・改善をする。 - 7.教育および意識向上
6.は、どうしても必要なサービスは、すぐに打ち切ってはいけないという考え方に基づきます。
企業の倫理観を問われるところで、どこまで実施するかについても判断が必要ですが、料金や価格を設定するときにも可能な限り、困窮者への配慮をしていこうということです。
消費生活アドバイザーには、こうした消費者にとって必要不可欠なサービスへのアクセスに配慮する役割も、ぜひ果たしていただきたいと思います。
CSRからSRへの動きがあり、それが国際標準となって、内容が具体的に示されたということです。
(2)CSV(共通価値の創造)の推進
次の図はCSRとCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)の違いを示しています。CSVは、単なる社会貢献でなく、企業自身のための戦略であり、企業利益の最大化を図る一つの要素として、社会的な利益や社会的な価値を高めることにも貢献する、といったところから発想されています。
(3)消費者志向経営の推進
消費者志向経営は、倫理的消費と同様に消費者基本計画に明記されることにより本格的にスタートしました。昨年(2016年)4月に検討会の報告書が発表され、さらに10月に消費者庁から「消費者志向経営の推進について」という概要が出されています。
以下はその抜粋です。
「消費者全体の視点」「健全な市場の担い手」そして「社会的責任の自覚」、この3つを基本概念として事業者が経営を行うということです。
このことを具体的に進めていくために、消費者庁が消費者志向自主宣言フォローアップ活動を進めています。企業に自主宣言をしてもらって見える化をし、優良事例を公表します。何をしてよいのかわからない企業に対して、こんなことができると、見えるようにしていくわけです。現在、推進組織をつくって、このフォローアップ活動に宣言する企業を集めているところです。
自主宣言・フォローアップ活動参加企業のリストが、消費者庁ホームページに掲載されています。ここで各企業の活動のようすを見ることができます。