大石さんは亀田製菓のお客様相談室に25年勤められていました。
大石 はい。1995年7月に日本で製造物責任法が成立されたのを契機に、亀田製菓(株)品質保証部の中にお客様相談室が設置され、その1年後の1996年に消費者問題の専門家として勤務することになりました。
スタート時のお客様相談室は、私を含めて女性2名、男性4名の6名体制で、お客様からの問合せなどの電話応対とクレーム対応、そしてお客様情報の社内向けのフィードバックを行っていました。
その後、商品開発部の依頼で新商品のパッケージのデザインやキャッチコピーなどが消費者の誤解を招かないか、法律に則っているかなどのチェック業務も加わるようになりました。
私は消費者の立場になって遠慮なしにダメ出しをしていましたので、その時の新商品の担当者の気持ちを察するに、意見を聞きにお客様相談室を訪ねるのはとても気が重かったと思います。
相談内容の特徴などは? また、やりがいやご苦労された点などは?
大石 食物アレルギーのあるお客様から、原材料についてのお問合せや、「この商品はどこで購入できるか教えてほしい」といった相談が多かったです。
食物アレルギーのご相談は時には命にかかわるので、とても神経を使いました。原材料の一つひとつを分解してアレルゲンが含まれていないかどうかを慎重に調べてお答えしました。
また、商品の取扱店についての問合せも、管轄の支店の担当セールスに納品実績を教えてもらい、実際にお店の棚に並んでいるかどうか、時にはお客様のふりをしてお店に電話で確認をしてお答えするようにしました。
電話で相談されるお客様は比較的高齢なお客様が多かったので、わざわざ足を運んでいただいて無駄足にならないように常に注意をして対応しました。
お客様の問合せにお応えするために多くの時間が必要な場合も多々ありましたが、お電話の最後に「丁寧に調べてもらってありがとう。電話をしてよかったです」と言っていただけた時が一番嬉しかったし、やりがいを感じました。
苦労をしたのは、たとえば原材料などに対してリスクゼロを求めておられるお客様の対応です。
週刊誌などに輸入食品の残留農薬などについてのセンセーショナルな記事が掲載されると、商品の原材料の安全性についての問合せの電話が急激に増加したりしました。会社の管理体制を丁寧に説明しても、相談者は週刊誌の記事を信じておられるために、会話の終着点を見つけるのが難しかったです。
お客様の声が商品開発などにつながったことは?
大石 赤ちゃん用のおせんべい「ハイハイン」の個包装の透明フィルムの両端を着色し、万が一、包装の切れ端が床などに落ちていても目立つようにしました。
これはうっかり大人が見落としていたフィルムの切れ端を赤ちゃんが拾い、「もしかしたら飲み込んでしまったのでは」との心配の相談があったためです。
また、「プラスチック製のトレーはごみが増えるだけなので使わないでほしい」とのお客様の声が寄せられていました。袋に入っているトレーは割れやすい製品のクッションの役割も担っていましたが、環境負荷の低減や消費者のゴミ量を減らすため、プラスチックトレーを使わないパッケージを新たに開発するとともに、パッケージの大きさもスリム化しました。
商品の袋のサイズを小さくすることは店頭に並んだ時に競合品と比較してボリューム感がなくなり貧弱に見えるために、会社としては大きな決断だったと思います。