特集記事
●食品――消費者価値の追求
では、そうした基本理念に沿ってどのような事業展開をしているのか。食品分野とアミノ酸分野について簡単にお話します。
食品分野は、創業の原点の商品であるグルタミン酸ナトリウムから、専門性を増すにつれて、成分を付加していきます。
たとえばグルタミン酸に核酸、イノシン酸の類を加えて商品「味の素」にする。この2種類のアミノ酸を合わせることは、「合わせだし」をつくるということです。つまり、昆布とかつおだしを合わせる。そうすると、味のうま味が足し算どころか、かけ算になるわけです。この作用を商品「味の素」は利用しています。
そして、これにかつおエキスを加えると風味調味料になる。
さらに、メニューあるいは献立に応じて必要な原料を加えていく。スープ類にヌードルを入れれば即席麺になる。液体部分を減らしていくと、加工食品分野にいきます。
そうした工夫、技術を重ねることで、お客様の使い勝手がよくなります。つまりお客様にとっての価値創造を図るわけです。
このステップを踏みながら、各マーケットで事業活動をしています。
その結果、現在、アセアン諸国での味の素グループの商品は下図のような位置づけとなっています。
50%以上のシェアをもち、かつトップシェアの商品が多数あります。
いかにして、こういう地位を得ることができたか。諸先輩の努力は、もちろんあるわけですが、事業展開のポイントは、三つのAに集約されます。
一つはAffordable。誰でも買いやすい価格設定にする。
国によって、それぞれの為替・通貨でワンコインで買えるような分量設定をしています。日本でいえば、5円玉1コ、50円玉1コで買える、といった考え方です。これは、その地域の経済状況にもよりますが、1回ごとの使用量を買うという購入習慣だったりするからです。
二つ目はAvailable。どこでも買えるようにする。
東南アジアには、大屋根の建物に間口がわずか半間ばかりの小売商が何十、何百と軒を連ねている市場がたくさんあります。そうした場所の食料を扱う店舗には全部、味の素グループの商品を扱っていただく。どこでも買えるように津々浦々に商品を配するということです。
三つ目のAはApplicable。現地の人が使いやすくする。
その地域の典型的なメニューに味の素グループの商品をどう使っていただけるかを研究し、それをピックアップしてデモンストレーション等でお伝えするというやり方です。
たとえば日本でほんだしを伝えようと思ったら、味噌汁でお伝えするわけですが、こうしたことをベトナムではフォーで、マレーシアやインドネシアではナシゴレンといったようなメニューで行います。
こうしたApplicableができるためには、現地の方の味覚が必要ですので、味の素グループは味覚審査パネルをそれぞれの地域の人たちで構成しています。300倍に薄めた砂糖・塩・グルタミン酸・酢などを飲み、どれが砂糖か、どれが塩水か言い当てられる、味覚に非常に敏感な方たちです。
その方たちに第1次の試作品を評価をしてもらいながら、レシピワークをします。
そして商品を工場生産するにあたっては、グルタミン酸のように非常に汎用性が広く、どこの地区でも使う商品については、マーケットが1番大きい中心地域に大規模な生産工場を建てる。しかしほんだしのような、その地域の味覚に沿った商品づくりが必要な商品は地域ごとに生産体制を組む。
基本的にはこうした考え方で、現在、生産体制を組み立てています。
たとえばアセアンでは、タイに大きな工場がいくつかあります。カンボジアやミャンマー、こういったところには、包装工場、すなわち小袋をつくる工場を置き、その地域向けの容量・サイズの製品づくりをしています。