特集記事
●アミノ酸――バルクからスペシャリティへ
次に、アミノ酸についてお話したいと思います。
桶板の長さが不揃いな場合、水は短い桶板のところまでしか入りません。こうしたことはヒトあるいは生物のアミノ酸に関しても当てはまります。
たとえば、下図の左のような状態がよく起きます。畜産用飼料を配合するにあたっては、リジンの桶板が一番短くなりがちです。そうしますと、ここまでしか水が入らないのと同じことになってしまい、他のアミノ酸がそれ以上あっても、使われずに体外へ出てしまいます。
したがって、他のアミノ酸をより有効に使うには、この不足しているリジンを右のように追加します。すると、他のアミノ酸もそれだけ有効に使われます。
こうした原理を使って豚の飼料を配合しますと、通常の畜産用飼料だけの場合は190〜200日かかるような肥育期間が、180日で済みます。栄養バランスがよいので速く肥育できるわけです。
加えて、アミノ酸という栄養そのものを与えますので、排泄物の量が減ります。
牛の場合、これまではリジンが4つの胃の中で分解されてしまって、タンパク質関連の栄養素を吸収する腸まで届かないという問題がありました。新しい技術で、腸まで届いてようやく消化吸収されるようにしました。
アミノ酸の先端技術を2例ご紹介します。
一つは「アミノインデックス」という商品です。
ヒトの血液中にはアミノ酸が一定の濃度パターンで含まれています。ところが、病気になる、あるいはその前兆のときには、このパターンが崩れ出します。この崩れる状態を判別する技術ができれば、がんのリスクが高まっているかもしれないとわかる。5種類のがんについて、そうした判別技術ができました。
採血だけの簡単な検査ですので、がん検診の受診率向上につながる可能性があります。糖尿病についても同様に判別できることがわかってきています。
二つ目は培地です。
iPS細胞による医療技術が急速に進歩していますけれども、この技術がしっかりできるためには、必要な細胞を増殖する培地が欠かせません。この培地が動物に由来する原料から来てしまうと、別の要素が入ってしまって、結果が読めないことになりかねません。そのため、非常に純粋なアミノ酸をこの培地に使うことが重要になってきます。
ここに、味の素グループが106年間積み上げた技術が、今生きつつあります。