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特集記事

東 珠実さん

講演抄録
消費者市民社会における企業と消費者
―消費生活アドバイザーの役割―
平成28年度(一財)日本産業協会交流会(2017年3月27日)より

椙山女学園大学現代マネジメント学部
教授 東(あずま) 珠実 氏

2003年より現職、専門は消費者経済論・生活経営学。2016年より日本消費者教育学会会長。消費者庁消費者教育推進会議委員、愛知県消費生活審議会会長ほか、地方自治体の受任委員多数。著書に『消費者市民社会と企業・消費者の役割』(共著、中部日本教育文化会)など。

1 消費者市民社会とは

「消費者市民社会」は、一言でいうと、消費者が主役の社会です。
 一般的には、消費者が環境問題や社会問題を解決するために積極的に行動する社会ととらえられています。たとえば、環境に優しい商品を買う、環境に優しい行動をする、フェアトレードの商品を買って社会問題の解決に貢献する、といったように消費者が消費行動を通して環境問題や社会的な問題を自分たちの行動で解決していく社会です。

そして消費者市民社会が目指すのは、公正で持続可能な社会。フェアであり、将来に向かって長く続く、しかも、しっかりと経済も回っていき、人々の関係や生活の豊かさも維持できるような社会を目指していく。

この消費者市民社会を広報したり、わかりやすく啓発するためのキャッチコピーが「あなた(消費者)の行動が社会を変える!」です。


2 消費者行政・消費者教育の歴史と消費者市民社会

(1)消費者行政・消費者教育の歴史

戦後の我が国の消費者行政・消費者教育には、大きくは3つの歴史的な発展段階があると、私は考えています。

20世紀は「消費者保護基本法」という1968年に制定された法律に象徴されるように、消費者は「保護される」存在でした。
 高度経済成長期を思い起こすと、食べると舌に色が着くような着色料や添加物が入った食品があったり、テレビ画面に横縞が流れるのを叩いて直したりしていました。
 企業が新製品を次々に開発して利益を追求するなかで、消費者が不利益を被ることが避けられない状況もあり、企業VS消費者のような関係が、一時ありました。
 そうした時代は、消費者は保護してもらわないと、新しく登場した商品・サービスのリスクから身を守ることができないということで、保護する政策が取られたわけです。

20世紀の後半、1980年に財団法人日本産業協会の消費生活アドバイザー資格試験が始まり、同年ACAP(消費者関連専門家会議)も設立され、1988年にNACS(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会)ができています。
 こうした団体の活動により、消費者と企業は、対立したり、利益が相反する関係ではなく、いっしょに同じ方向を向きながら利益を高めていくといった流れができてきました。

しかしながら戦後日本の20世紀の消費者と企業の関係を全体としてみると、まだまだ消費者を保護する必要がありました。消費者行政・消費者教育は、第1段階にあったと思います。

これが、21世紀に入り第2段階へと変化します。きっかけは2004年の消費者基本法の制定です。
 消費者保護基本法の「保護」が取れて消費者基本法に改正され、「保護から自立へ」ということが声高にうたわれました。

消費者は保護される存在ではなく、自分たちで自立的により良い消費生活をつくり上げていく存在とされ、消費者の権利が認められたり、それを支援する法律ができたりしました。消費者の自立を支援することが消費者政策、消費者教育の柱である、といった流れになります。

現在もその流れは続いているのですが、そこに「消費者市民社会」という言葉が入ってきます。

そのきっかけの一つは環境問題です。
 地球温暖化が進んでいくなかで、例えば、夏、消費者は自分が涼しければよいと考えるだけではなくて、自分が涼しくても地球の環境に悪影響を与えているのではよくない。そうであれば、自分の行動を変えれば問題も改善するのではないか、といった意識が広がってきました。

またこの時期、高齢者のリフォーム詐欺が増加し、盛んにメディアに取り上げられるようになりました。数千万円の被害に遭った80代のご高齢の姉妹の方もいました。自分が安全な消費生活が送れれば、隣のおばあさんは被害に遭ってもよいのか。こうした思いも一つのきっかけになり、地域で見守り合うこともたいへん大事になってきました。

グローバルな環境などに対して消費者が自分で問題を解決していこうという流れや、地域の安全を皆で守っていこうという流れ。これらにより消費者市民という概念の重要性が強調されるようになってきました。

消費者市民社会の構築は、2008年の消費者行政推進基本計画にも記載があり、2009年の消費者庁設立はその第一歩とされました。
 とはいえ、消費者市民社会という言葉が強調されるようになったのは2012年に制定された消費者教育推進法の条文に出てきてからのことです。

消費者教育推進法によって消費者市民社会の構築を目指すこととなり、消費者行政・消費者教育は第3段階に入ったと思います。

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