特集記事
釘宮 公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(通称:NACS)の理事をしています釘宮と申します。
私どもの団体は1988年に設立され、2011年に消費者団体として初めて公益法人に認定されました。消費生活アドバイザー、消費生活コンサルタントなど、消費生活に関する専門家が所属し、全国7支部で活動を行っています。
NACSでは、消費者志向推進委員会を中心として、消費者志向経営の支援を行っています。
また、消費者志向マネジメントシステムNACS基準を策定して、その普及にも努めているところです。その基準は、消費者志向経営の原則として、以下の6つを定めています。
- 1.法令を遵守する。
- 2.消費者の権利・利益を尊重する。
- 3.消費者の期待や要請に応える。
- 4.広く情報を開示する。
- 5.消費者との対話やコミュニケーションを行う。
- 6.消費者の被害や不利益について適切な解決を図る。
法令の遵守は当然のこととして、消費者の権利を守り、対話と情報開示を基本としながら期待に応えていくことを表していると考えています。
国際化・情報化・高齢化が進行する中で、企業のトップ、社員一人ひとりが消費者志向経営が求められていることを充分に認識していくことが、消費者志向経営を実現するためには必要だと思います。
長谷川 公益社団法人消費者関連専門家会議(通称:ACAP)で専務理事を務めています長谷川と申します。4年前まで、味の素株式会社の消費者対応部門で勤務した後、現在、出向という形でACAPの活動に携わっています。
ACAPは、企業や事業者団体の消費者対応部門の責任者などが集う組織で、消費者対応部門の力量の向上や消費者と企業の信頼関係の向上、さらには消費者の皆さまに賢明で自立した消費者市民になっていただけるような支援をする活動を一所懸命やっている団体です。
消費者志向経営は、まさにACAPが年来取り組んできているテーマです。今年度の消費者庁の消費者基本計画にこのテーマが掲げられたこともありまして、もう一度、組織として再整理をして、しっかり取り組もうとしているところです。
まず、消費者志向経営の定義ですが、基本的な要件として4点ほど考えています。
一つは、社会の一員としての企業の責任を果たしていく。これが何よりも重要ではないかと考えています。
二つ目は、消費者の権利と利益を尊重していく。
三つ目は、消費者視点に基づいた事業活動をしっかり、しかも丁寧に行っていく。
四つ目は、大きな見地になりますが、持続可能な社会の実現に対して役割を果たしていく。
などです。
さらに、事業者団体ですので、単に消費者にサービスを提供することに終始するのではなくて、経営戦略として、顧客を経営の非常に大切な資産、企業が持続的に発展する上で欠かせない資産であるという考えのもとに、その大切なお客様、資産をしっかりと維持拡大していく経営の在り方でもあると理解しています。
消費者志向経営の意義は、いろいろ考えられます。
- ・まさに企業の成長のもとであるお客様を大切にしていくことですので、企業に対する社会的な評価が高まり、結果として企業価値の向上に結び付いていく。
- ・また、賢明で自立した、建設的に消費を考える消費者が増えていくことになりますので、消費社会の活発化・健全化につながる。
- ・企業と消費者のそのような関わり方から、安全安心な消費社会の中で、生産・販売・流通・購買といったサイクルが回り、経済の好循環が期待できる。
このようなことが描ける経営の考え方と理解すべきではないかと思っています。
ACAPの取組みとしては、消費者対応部門の力量を上げていく。お客様のニーズをしっかり理解し、製品・サービスに反映できるレベルの力量をもてるようにすることがあります。それには会社の支援が大事です。
お客様の声情報の収集・反映も大事です。ACAPの会員企業はさまざまな施策を実行していますので、そうした活動を紹介し合い、勉強し合いながら取り組んでいます。
こうした活動の節々に、消費者や消費社会について充分に理解した消費生活アドバイザーがスタッフとして加わることは非常に好ましく、有効だろうと捉えています。
伊藤 経済産業省において消費経済を担当している伊藤と申します。行政の立場ですので、包括的な観点でお話をさせていただきます。
これからの日本経済社会にとって消費者志向経営は必要で、日々その重要性が高まっているのは事実だと思います。この国の経済が持続可能な発展を目指す限り、必ず一定規模のGDPを維持せざるを得ないからです。いま、少子化・高齢化・地域の衰退が進む中で、かつてのような量的拡大や市場の占有を目指すといった企業活動は、なかなか難しいと思います。
とりわけB to C市場はそうです。買う人が多ければ多いほど良いわけですから、当然そういった図式になります。
では、何を維持・拡大しなければいけないか。まさしく「量」ではなくて「質」だと思います。その「質」とは、価格以外の要素になるでしょう。
先ほど、川口さんが「ブランド」という言葉を使われましたけれども、この国の市場では、価格以外のエレメント(要素)を客観的にデータ化してはいません。投資家も「当然に、お客様のご要望に応えてビジネスをするのが企業活動の前提なのだから」と、主観で評価しがちです。
ここを定量化、客観視できればどうでしょうか。安全・安心面についてはすでにいろいろな指標がありますし、制度も充実しつつあります。充分とは言えないまでも、指標が一定程度あると思います。
これに加えて、商品・サービス等の価値として、非価格的な評価がどのようになされていくべきなのか、そういうものを提案して、売上に結びつけ企業内で評価される人たちが、社会の伸びしろをつくっていく。それを支える制度が、これからの日本経済を引っ張っていく上で必要とされていると思います。
消費者の安全・安心、消費者保護的な視点から意見を言っていく、そういった舵取りも、もちろん引き続き重要なのですけれども、消費者の「嗜好」を先取りする形で企業活動を導いていくことの要請が高まっていると思います。
この社会的要請に、消費者志向経営は、まさにかなっているのです。